重症心不全の定義と概念
重症心不全(Advanced Heart Failure)とは、一般的に「適切な薬物療法や通常の外科治療を十分に施行したにもかかわらず、高度な心不全症状が持続する状態」を指します。安静時は無症状ながら、平地歩行など、日常生活より弱い活動でも症状が出る状態、さらには安静にしていても症状(心不全症状)があり、少しの動作で症状が増悪する状態が“重症”(NYHA心機能分類Ⅲ‐Ⅳ)と定義されています。
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「2025年改訂版心不全診療ガイドライン」における心不全のステージ分類(Stage A〜D)における最重症「Stage D」に該当し、頻回の入院を繰り返し、生命予後が極めて不良な段階です。
臨床的な特徴
- 難治性の症状: 安静時または軽労作時の呼吸困難、疲労感、浮腫が持続する。
- 心拍出量の低下: 重度の左室収縮能低下(LVEF低下)のみならず、右不全や弁膜症、拡張不全(HFpEF)の進行を含む。
- 不整脈の合併: 致死性不整脈による急変のリスク。
- 他臓器障害(等): 体液過剰過多や、慢性的な低灌流による腎機能・肝機能障害の進行。
診断のポイント(ESC/JCSガイドライン等の指標)
以下は臨床の症状や、他覚的な検査(心臓超音波検査等)によって診断を深めていき、その重症度をハートチーム全体で評価します。
- 重度かつ持続的な臨床症状: NYHA心機能分類 III/IV。
- 重度の心機能障害: 超音波検査においてLVEF <30%、右不全、重症弁膜症、あるいは高用量の利尿薬を要する拡張不全。
- 直近12ヶ月以内の心不全入院: 予定外受診や入院の反復。
- 運動耐容能の著明な低下: 最高酸素摂取量の低下(目安として <12〜14 mL/kg/min)。
治療戦略
重症心不全の管理においては、従来の薬物療法の最適化に加え、以下の「非薬物的介入」のタイミングを逸しないことが重要です。
循環補助
強心薬の持続静注、機械的循環補助装置の装着(IABP、IMPELLAⓇ、V-A ECMO。)

IABP(大動脈バルーンパンピング)

Impella®

ECMO(VA)
高度な外科的治療:
補助人工心臓(VAD)、心臓移植。

緩和ケア
苦痛緩和とACP(アドバンス・ケア・プランニング)の並行。
重症心不全は単なる終末期像ではなく、VADや移植といった「積極的治療」と、QOLを重視した「緩和ケア」を両立させて検討すべきフェーズです。
重症心不全に対する高度な外科的治療と当院の体制について
1. 24時間365日の緊急対応体制
当院では循環器内科と密に連携し、重症心不全の患者さんに対して24時間365日体制で治療を行っています。薬物治療はもちろん、IABP、V-A ECMO、Impella®といった機械的補助(MCS)を迅速に導入し、一刻を争う事態にも対応可能です。
2. 心臓移植と補助人工心臓(VAD)
心機能の回復が困難な場合には、心臓移植や補助人工心臓の装着を検討します。
- 心臓移植: 厳しい適応条件があり、現在は移植までに5年程度の長期待機が必要です。
- 補助人工心臓(VAD): 移植待機中の患者さんの多くは、心機能を補うポンプを装着します。リハビリを経て自宅復帰を目指せる「植込型補助人工心臓」の装着が現実的ですが、こちらも厳格な適応条件があります。
3. 専門医による強固な連携体制
当科には、他院で長年重症心不全の外科治療に携わってきた経験豊富な医師が複数在籍しています。また、心臓移植実施施設である東京大学医学部附属病院や東京女子医科大学病院とも緊密な連携体制を築いており、高度な医療をスムーズに提供できる環境を整えています。
4. 当科の現状と展望
2026年現在、日本で使用可能な植込型補助人工心臓には「ハートメイト3(HeartMate3)」と「エバハート2(EVAHEART 2)」があります。
- 現在の体制: 当科は2025年より「植込型補助人工心臓管理施設」の認定を受けており、ハートメイト3を装着された患者さんの外来診療・治療をすでに行っています。
- 今後の展望: 近い将来、当院で装着手術そのものが可能となる「実施施設」の認定取得を目指し、体制をさらに強化しています。(2026年申請予定)