遺伝性大動脈疾患とは
大動脈は、心臓から全身へ血液を送る最も太い血管です。
この大動脈の壁が生まれつき弱くなりやすい体質を持つ病気を、「遺伝性大動脈疾患」と呼びます。
代表的な疾患として、
- Marfan syndrome(マルファン症候群)
- Loeys–Dietz syndrome(ロイス・ディーツ症候群)
- Ehlers–Danlos syndrome(エーラス・ダンロス症候群)
- 家族性胸部大動脈瘤・大動脈解離
などがあります。
これらの病気では、大動脈が徐々に拡大し、「大動脈瘤」や「大動脈解離」を起こす危険性が通常より高い傾向があります。
一方で、早期発見と適切な経過観察・治療によって、多くの患者さんが長期にわたり日常生活を送ることが可能です。
マルファン症候群とは
Marfan syndromeは、全身の「結合組織」に関わる遺伝性疾患です。
結合組織とは、血管・骨・靭帯・眼などを支える“身体の土台”のような組織です。
この組織を構成する遺伝子に異常があることで、大動脈をはじめ様々な臓器に特徴が現れます。
主な特徴
心臓・血管
- 大動脈基部拡大
- 大動脈瘤
- 大動脈解離
- 心臓弁逆流(大動脈弁・僧帽弁)
骨格
- 高身長
- 手足が長い
- 胸の変形(漏斗胸・鳩胸)
- 側弯症
眼
- 水晶体脱臼
- 強い近視
ただし、症状の現れ方には個人差があり、「背が高い=マルファン症候群」というわけではありません。
なぜ注意が必要なのか
最も重要なのは、「大動脈解離」「大動脈瘤破裂」など大動脈緊急疾患を予防することです。
大動脈解離とは、大動脈の壁が裂ける病気で、突然の激しい胸痛・背部痛で発症します。
命に関わる緊急疾患であり、迅速な診断と治療が必要です。
遺伝性大動脈疾患では、若年でも発症することがあるため、
- 定期的な画像検査
- 血圧管理
- 適切なタイミングでの手術
が非常に重要になります。
どのような検査を行うのか
1. 心エコー検査
超音波で心臓と大動脈を評価します。
- 大動脈径
- 弁逆流
- 心機能
などを確認します。
体への負担が少なく、定期フォローの中心となる検査です。
2. CT検査
胸部から腹部までの大動脈を詳しく評価します。
確認するポイント
- 大動脈の太さ
- 瘤の有無
- 解離の有無
- 拡大速度
手術時期の判断にも重要です。
3. MRI検査
放射線被曝がないため、若年患者さんでは有用な場合があります。
特に長期フォローでは、
- 被曝低減
- 血流評価
- 大動脈全体の評価
という利点があります。
4. 遺伝学的検査
原因遺伝子を調べる検査です。
代表的には、
- FBN1
- TGFBR1
- TGFBR2
などが知られています。
ただし、
- 遺伝子異常が見つからない場合もある
- 遺伝子だけで重症度が完全には決まらない
ため、症状や画像所見と合わせて総合的に診断します。
※遺伝カウンセリングを含め、専門施設で慎重に行われます。当院は上記を行う東京大学病院との連携がとれます。
治療について
1. 内科的治療
血圧管理
大動脈への負担を減らすことが重要です。
主に、
- β遮断薬
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
などが使用されます。
急激な血圧上昇を避けることが、大動脈保護につながります。
2. 生活管理
注意が必要な運動
- 高重量トレーニング
- 瞬発的な強い力み
- 激しい接触スポーツ
一方で、軽い有酸素運動は推奨されることもあります。
活動制限は患者さんごとに異なるため、主治医との相談が重要です。
3. 外科治療
大動脈が一定以上に拡大した場合には、予防的手術を検討します。
主な手術には、
- 大動脈基部置換術
- 上行大動脈置換術
- 弁温存大動脈基部置換術
などがあります。
当院では、条件さえ合えば自分の大動脈弁を温存する「自己弁温存手術」を行うことを選択いたします。
手術時期は、
- 大動脈径
- 拡大速度
- 家族歴
- 遺伝子背景
- 妊娠希望の有無
などを総合的に判断して決定します。
ご家族の検査について
遺伝性大動脈疾患では、家族内で同様の病気が見つかることがあります。
そのため、
- 若年で大動脈解離を発症した家族がいる
- 「突然死」が家系内にある
- 家族に大動脈瘤がいる
場合には、血縁者の検査を是非お勧めしております。
最後に
遺伝性大動脈疾患は、「突然発症する怖い病気」という側面だけでなく、
- 早期発見
- 定期検査
- 適切な薬物治療
- 適切なタイミングでの外科治療
によって、将来のリスクを大きく減らせる時代になっています。
気になる症状や家族歴がある場合には、当院へご相談ください。