先天性心疾患/成人先天性心疾患

先天性心疾患の外科治療について

先天性心疾患という病気の特徴

先天性心疾患とは、生まれつき心臓や大血管に構造的異常を有する疾患の総称です。治療方針は「病名」だけで決まるものではありません。同じ診断名であっても、心臓内の構造、血管の位置関係、弁の形態や機能、血流の偏り、肺の状態、全身の状態などによって、治療の必要性やタイミング、方法は大きく異なります。

先天性心疾患の治療では、単に手術の適否を判断するのではなく、病態の経過や成長・加齢に伴う変化を踏まえた治療設計が重要になります。どのタイミングで介入すれば心臓や肺への負担を最小限にできるのか、どの方法を選べば将来の再治療のリスクを抑えられるのかといった、時間軸を意識した判断が常に求められます。

そのため当科では、出生時から成人期、さらに中高年期に至るまでの長い時間軸を見据えて、治療計画とフォローアップを組み立てています。

治療の全体像(先天性心疾患の外科治療が目指すもの)

先天性心疾患に対する外科治療は、最終的に「どのような循環を目指すか」によって大きく二つに分けて考えます。

左右の心室を用いた循環

  • 心房中隔欠損症
  • 心室中隔欠損症
  • 房室中隔欠損症
  • ファロー四徴症
  • 大血管転位
  • 総肺静脈還流異常    

など、

多くの疾患では、右心室から肺へ、左心室から全身へという本来の循環を回復・再構築することを目標に手術を行います。

この場合の手術の目的は、

  • 心房中隔や心室中隔の欠損孔を閉鎖し、不要な短絡を遮断する
  • 狭くなっている血管や血液の通り道を広げ、必要に応じて再建する
  • 心室と大血管の関係を整理し、血液の流れを適切に整える
  • 弁の形や働きを考慮し、必要な修復を行う


といった「構造の是正」です。

一つの心室で全身の循環を支える仕組みを構築する治療

  • 左心低形成症候群
  • 三尖弁閉鎖
  • 僧帽弁閉鎖
  • 左室型単心室
  • 重症の肺動脈閉鎖  

など

では、左右の心室をそれぞれ肺循環と体循環に分けて用いることが難しい場合があります。このような場合には、一つの心室を全身へ血液を送り出すポンプとして安定して用い続けられるよう、循環全体を設計するという治療戦略を取ります。

その到達点の一つとして位置づけられるのが、いわゆる「フォンタン循環」です。

フォンタン循環では、全身から戻ってくる静脈血を心室を介さずに肺へ導くことで、体心室が全身循環に専念できる構造を作ります。フォンタン循環は、体心室への負担を軽減し、安定した循環を目指すための重要な治療到達点の一つです。一方で、フォンタン循環は完成すれば終わりという治療ではなく、その後の長い経過を見据えた慎重なフォローアップが不可欠です。

フォンタン循環では、特殊な血行動態によって、遠隔期に不整脈、血栓・塞栓症、蛋白漏出性胃腸症、肝障害(フォンタン関連肝疾患:FALD)など、特有の合併症が生じることがあります。これらは自覚症状に乏しいまま進行することも少なくないため、症状の有無にかかわらず、計画的な評価と継続した管理が重要になります。当科では、小児期の治療成績だけでなく成人期以降を含めた長期的な視点から循環を評価し、必要に応じて内科的治療や追加治療を行いながら、生涯にわたるフォローアップを重視しています。

手術時期の判断について

先天性心疾患の治療では、「いつ手術をするか」が極めて重要です。しかし、手術時期は月齢や体重といった単純な指標だけでは決められません。当科では以下の要素を総合的に評価して判断します。

  • 心不全症状の有無と程度(哺乳状況や体重増加の経過)
  • 心機能(収縮能・拡張能)や心拡大の程度
  • 血中酸素濃度(チアノーゼの程度)
  • 肺血流量(多すぎないか、少なすぎないか)
  • 肺高血圧の進行リスク
  • 弁逆流や弁狭窄の程度および進行性
  • 心臓以外の合併奇形
  • 将来の再治療リスクをどう最小化できるか

つまり、「今すぐ手術が必要か」「もう少し待った方が安全か」「今は手術を避ける方が良いのか」といった判断を、医学的根拠に基づいて一つひとつ積み重ねて決めています。

当科で取り扱っている主な先天性心疾患

  • 心房中隔欠損症
  • 心室中隔欠損症
  • 房室中隔欠損症
  • ファロー四徴症
  • 大血管転位症
  • 総肺静脈還流異常症
  • 大動脈縮窄症・大動脈離断症
  • 総動脈幹症
  • 左心低形成症候群
  • 単心室疾患
  • その他の複雑先天性心疾患

成人先天性心疾患(ACHD)

成人期における先天性心疾患の特徴

当院におけるACHD診療体制

当院では診療経験が豊富なACHD専門医が複数名常勤し、初期評価の段階から外科的選択肢を含めて検討する体制をとっています。成人期のACHDにおける外科治療は、単に「手術が可能かどうか」を判断するものではなく、どのタイミングで、どの方法を選ぶことが長期予後にとって最も合理的かを見極めることが重要です。


先天性心疾患は、小児期の治療で完結する病気ではありません。成人期以降、不整脈、心不全、弁機能障害、導管や人工物の劣化、肺高血圧などが問題となり、外科的治療を含めた再評価や再介入が必要になることがあります。ACHD診療では、これまでに行われた手術の内容や循環の成り立ちを正確に理解したうえで、現在の病態を再構築する視点が不可欠です。

ACHDにおける外科治療の考え方

外科治療の対象となるのは、弁逆流・弁狭窄の進行、導管や人工血管の劣化、右室流出路や肺動脈系の狭窄、残存短絡や再短絡、体心室機能に影響する血行動態の変化などです。これらは無症状のまま進行することも多く、症状が顕在化してからでは治療の選択肢が限られる場合があります。そのため当院では、現在の症状の有無だけでなく、将来的な再介入の可能性を含めて評価し、必要であれば成人期であっても外科治療を選択肢として提示します。

また、単心室循環やフォンタン循環に到達した症例においても、遠隔期の循環動態や合併症を踏まえ、外科的介入が有効となる場面があります。ACHDにおける外科治療は、小児期と同じ手術を繰り返すものではなく、成人の身体条件や併存疾患を考慮した再設計が求められます。当院では、内科的治療・カテーテル治療と外科治療を同じ土俵で検討し、その患者さんにとって最も現実的で持続可能な治療方針を選択することを重視しています。

メール相談窓口

先天性心疾患(小児・成人を含む)に関するご相談は、小児心臓血管外科のメール窓口で受け付けています。患者さん・ご家族からのご相談に加え、地域の医療機関からの事前相談にもご利用ください。

小児心臓血管外科 相談メール:【 ccvs@marianna-u.ac.jp


※メールのみで診断や治療方針を確定することはできません。最終的な判断は、診察および検査に基づいて行います。緊急時は通常の医療連絡体制をご利用ください。